<1999年度 関西まちづくり賞>
業績名:御坊市・島団地再生事業に関する取り組みとその成果
受賞者:御坊市島団地対策室/神戸大学平山研究室/現代計画研究所


事業の経緯と業績

  御坊市営島団地は多面的な問題が絡み合っている。行政(島団地対策室)、住民(みなおし会)、設計者(現代計画研究所)、研究者(神戸大学平山研究室)は協力して再生計画・事業を粘り強く進めてきた。「現地立地行政」「包括プログラム」「アクション・ユニット」「ワークショップ」などの新しい方法が積極的に試され、単純な団地再建ではなく、「立体集落」のまちづくりが進んでいる。再生事業の方法と実際の成果は今後のまちづくりのあり方に対して豊富な示唆を提示するものとなった。

以下に島団地再生事業の経緯と業績を示す。

  1. 自立援助担当者会議の設置:御坊市内の最大の住宅団地である島団地は、1959年から1969年にかけて建設された226戸の改良・公営住宅である。中層集合住宅が9棟、218戸と中心を占め、これ以外に簡易耐火2階建て1棟、8戸がある。この島団地は、住民の生活困窮、物的状態の老朽・劣化、コミュニティの停滞などの問題が深刻になっていた。こうした状況に対して、1989年に自立援助担当者会議が行政内部に構成され、島団地の再生に向けた検討が開始された。

  2. 団地調査と提言:1990年に神戸大学・平山のグループが団地の実態調査を行い(市委託)、それにもとづく再生計画の提言を行った。再生計画の方向性として、個別世帯へのソーシャルワーク・プログラム、建て替え事業を基軸としたハウジング・プログラム、地域社会形成を支援するコミュニティ・プログラムを組み合わせる「包括プログラム」を推進すること、そのために団地の問題に専念する「現地立地行政」の組織設置が必要であること、そこに住民参加を積極的に巻き込む「アクション・ユニット」を構築すべきこと、などが提言された。

  3. 島団地対策室の設置:この提言を受けて、1992年4月に島団地対策室が現地立地の課クラスの行政組織として発足した。環境・福祉・児童・教育などの分野に所属していた6名の職員から構成される横割り組織となっている。全国的にみて新しい試みである。この対策室の設置によって、再生事業は本格的なスタート地点に到達したものといえる。住民組織としてはみなおし会が発足した。対策室が包括プログラムを行い、そこにみなおし会の関与を通じて住民が参加していくというアクション・ユニットの仕組みが形成された。

  4. 建て替え事業に先立って:対策室の最初の仕事は行政と住民の関係をつくる点にあった。行政が長期に渡って島団地の問題を放置してきた経緯は否定できない事実である。対策室の職員は日常的に住民との接触を繰り返し、互いの信頼関係を形成するところから活動を開始する必要があった。再生計画の中心的な課題は団地の建て替えである。しかし、対策室はハウジング・プログラムに直ちに着手するのではなく、ソーシャルワークとコミュニティ・プログラムを先行させた。個別世帯とコミュニティのためのプログラムの先行は、団地の再生が物的問題の解決だけでは達成されないという判断にもとづいている。

  5. 再生計画基本構想:1993年に現代計画研究所・大阪事務所が建築の専門家として参画し(市委託)、同研究所及び平山研究室によって再生計画の基本構想がまとめられた。この基本構想では、島団地の現在の敷地における即地的な建て替えは非常な高密度を結果することから、近傍に別途の敷地を確保し、現敷地と新敷地の双方を使用する事業の実施が計画された。

  6. 漸進的な発展:再生事業は10期(10年間)にわたり、最初の5期の間に新敷地への建設を行い、その後の5期の期間に現敷地の建て替えを行う計画となっている。計画戸数は総計240戸とされ、現状に比べて若干の戸数増である。事業が10期に及ぶのは、行政の財政事情に起因している部分はあるが、各年度の成果と反省点を評価したうえで、それを次年度にフィードバックさせ、漸進的に事業内容を発展させるという積極的な意味を含んでいる。1997年には平山研究室が総合的な評価研究を実施している(市委託)。

  7. 立体集落のまちづくり:現在の島団地は中層箱形の住棟を中心とする空間をつくり、周辺地域の文脈からは浮き上がって切り離され、異物化した状態になっている。基本構想の建築計画は、周辺から隔絶される特異な「団地」ではなく、「立体集落」をたちあげようとするものである。建築計画の提案は、周辺地域との融合性を意図したボリューム計画と住棟の分節化、地域性に配慮した景観計画とデザイン、コミュニティ形成に配慮した囲み型配置、立体街路・コモンルーム・屋上庭園などによる共用空間の立体的な多重化と有機的構成などが特色になっている。新しい試みである「だんらん室」の設置は、単身高齢者が集まって住み、ヘルパーが生活支援を行うための空間とシステムの形成を意図したものである。

  8. ワークショップの起動と継続:1995年にワークショップ方式にもとづく建て替え事業がはじまった。住民・行政・設計者・研究者が互いに話し合い、手を動かし、団地の再生に向かって協力するという方法をワークショップと呼んでいる。島団地では住民は劣化した空間を一方的に与えられ、環境から疎外された状態に置かれてきた。この状況を克服するには、住民は自身の発想と活動が影響力をもっているという感覚を手に入れる必要があった。ワークショップはこれまでに100回以上に渡って粘り強く継続されてきた。

  9. ワークショップによる住宅・環境設計:計画の骨格は設計者によって暫定的に準備される。これを踏まえたうえで、ワークショップが行われ、住棟のどの位置に誰が住むのかを決定する「陣取り」、個別世帯が自身で居室部分のプランを自由に設計する「間取りづくり」、上下階の構造壁・台所の位置を揃える「縦列調整」、コモンルーム・立体街路・屋上庭園・外壁色彩・植樹・コミュニティ運営などに関する「共用空間づくり」という手順で設計がなされる。住民の希望、行政の意向、設計者・研究者の考え方を相互にぶつけ合いながら住宅・環境設計が進んできた。

  10. 新たな展開に向けて:1997年末にようやく第1期の住棟が新敷地に完成した。現在は第5期のワークショップが終盤に入った時期である。自立援助担当者会議の設置から10年が経過し、新敷地の計画がほぼ終了したことから、再生事業は一段落し、現敷地での事業に向けて新たな取り組みを開始すべき段階を迎えている。

 島団地再生事業は改良・公営中層団地の建て替え事業として全国最初の事例と思われる。複雑な問題状況に対して、「現地立地行政」「包括プログラム」「アクション・ユニット」「ワークショップ」「立体集落」などをキーワードとする実験的な方法を発案して実践に移し、提案的かつ良質の環境を実現してきた。今後のまちづくりのあり方を検討するための重要な参照例の一つになると考えられる。

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