2002年度  関西まちづくり賞
  2002年度授賞業績を応募された業績説明をもとにご紹介いたします。

『京都の都心界隈における地域共生のまちづくりの取組』                   

                                                         地域共生の土地利用検討会

姉小路界隈を考える会 市古 和弘
    潟Aーバネックス 牧野 忠廣
   (財)京都市景観・まちづくりセンター     理事長   西島 安則
   京都大学大学院工学研究科建築学専攻 教授   高田光雄
    樺n域計画建築研究所 石本 幸良
   現代計画研究所 大阪事務所 江川 直樹
   京・まち・ねっと 石本 智子

T 取組の契機と経過
1. マンション反対運動から市民まちづくり活動への展開
 今回の敷地は、平成7年に分譲マンション建設が計画され、地元がこれに対してマンション建設反対運動を展開した用地である。地元では、これを機に「姉小路界隈を考える会」を設立、まちを再発見し、皆が納得できるまちの将来像を探ることを目的に、さまざまな活動が活発に展開された。一方で、「考える会」設立のきっかけとなったマンション計画は、平成8年3月に白紙撤回に至った。

2. 地域共生の土地利用検討会の発足
 地権者である潟Aーバネックスは平成10年、地域の人に受け入れられ、ともに享受しあえる施設建設を目指したいと、地元との意見交換の仲介を(財)京都市景観・まちづくりセンターに要請。地元では、関係町内会や団体でその意義や進め方などの協議を重ね、提案を受け入れることで合意し、「地域共生の土地利用検討会」は平成11年1月に発足。発足の時点で、新しい施設の計画はまったくの白紙の状態で、検討会の中で、地域の将来像を見つめながら取り組んでいくこととした。

3. 検討会の構成メンバー

住民 地元町内会 姉菊屋町、松長町、南柳町
市民活動グループ 姉小路界隈を考える会、京の三条まちづくり協議会
事業者(地権者) 潟Aーバネックス
学識経験者 京都大学高田研究室(高田助教授は検討会座長)
事務局 (財)京都市景観・まちづくりセンター
地権者 潟Aーバネックス
民間コンサルタント 樺n域計画建築研究所、京・まち・ねっと
干ーバネックス設計チーム 現代計画研究所、京大高田研究室

                   (注)設計チームは第二段階の検討会から参加     

4. 検討会の流れ
 今回のような取組の先進事例はなく、関係者で手探り状態の中で段階的に検討を進めた。
◆第一段階「土地利用の機能イメージをまとめる」(平成11年1月〜12月 第1回〜9回検討会)
 まずは検討地にどのような機能をもたせるか、まちのシステムの一部として検討地をイメージし、ワークショップ等を重ね、まちの将来像から検討地での基本的な施設機能の検討を行った。
◆第二段階「土地利用の具体化」(平成12年4月〜12月 第10回〜17回検討会)
 第一段階の結果を踏まえ、計画の具体化を行った。ここでは「建築計画の検討」と「交流施設の内容の検討」、「新しい人との交流・意識の共有」を三本柱とし、同時進行の形で検討を進めた。
 検討会の議論の経過の中での対話を尽くした結果、一定の制約の中で地域と共生する土地利用計画・施設計画をまとめることができた。

5.検討会の取組の成果
 検討会でまとめた土地利用基本計画をもとに設計が実施され、平成13年10月着工、14年8月末に完成し、9月から入居が開始された。(◎建築概要:共同住宅SRC造8階建 住戸45戸、店舗1戸)
 完成した建物は単なる町家の形の模倣ではなく、坪庭や路地といったすきまや奥行きのある構造の立体化が図られ、まちなみのスケールの連続性が継承されつつ、高度利用が実現している。京町家が集積する歴史的な町家街区において集合住宅が共生するための多くの示唆が集約されている。

U 取組の概要と特徴
1.「価値の共有」のためのワークショップの開催
 検討会では、より多くの地域の方々のご意見を伺う機会として、ワークショップ「それぞれの顔が見える都心(まち)案内 わたしのまちのいいこと・いいとこ・いい話」を開催し、住む人が考えるさまざまな「まちのよさ(資源)」を集めながら、それぞれの思いを確認し、共有した。

ワークショップ風景
2.基本計画の中間まとめの発表
 地域の持つ「居住」「なりわい」「文化性」の三つのバランスを、今回の計画の中でうまく実現するために、また、計画によって地域全体の活力や魅力を高めるために、検討会では今回の計画をまちの人の思いを映し出す一つの環境づくりとして捉え、その機能をまとめた中間報告を発表、第一段階の節目とした。また、多様な土地利用の具体的イメージとして、実現性・事業性の検証を行い、その結果、賃貸による集合住宅を事業計画の中心に据え、検討を進めることとした。

3.建築計画の検討経過
 検討会では、敷地周辺の200分の1と500分の1の模型を使い、建築計画を検討した。鳥瞰的な視点、通りを歩いている時の日常的な視点など建物のかたち(デザイン・ボリューム・高さなど)を検証した。模型の中に小型カメラを歩かせ、通りからの見え方やある家の2階からの見え方など、様々な視点で検証を行った。

4.まちなか住まい交流会の開催
 検討会では、新しい人と地元の人とのコミュニケーションを促進し、新しいまちづくりの担い手の確保や交流促進につながる仕組み・仕掛けを考えることを目的に、参加者を新聞等で公募して「まちなか住まい交流会」並びに「まちなか住まい交流会・ワークショップを開催した。地域の人も新しく住む人も“顔の見える安心感”を大切にさりげない交流を自然に行うことを確認した。
検討会で使用した周辺模型 まちなか住まい交流会の様子 界隈ガーデンの作成風景

5.新しい交流活動の実施
 アーバネックス三条の新しい入居者と地域住民との交流活動として、竣工前の平成14年8月の姉菊屋町の地蔵盆に入居予定者を招待し、交流の準備を開始。11月には都心界隈で実施された「まちなかを歩く日」のイベントを契機に、歓迎レセプションとして通りに行灯を並べ、秋の夜の交流会を実施した。また、アーバネックス三条と界隈を結ぶ「花の庭」を屋上菜園に実現し、「界隈ガーデン」と名付けて協力して来春を楽しみに維持管理を始めた。

V 取組の成果
1.「利害の調整」を越えた「価値の共有」の「まちづくり」の先駆的事例
  これまで、マンション建設紛争はその度に個々の「利害調整」で問題を解決しようとしてきた。今回の「地域共生の土地利用検討会」は住民と事業者、研究者、専門家、第三者機関等によるパートナーシップ型のまちづくりを実践し、「利害の調整」を越えた、「価値の共有」のまちづくりの成果を上げた。今回の取組は前例がない中で、ひとつ一つ積み上げながら進められ、この取組のプロセスには多くの一般解が内包されている。

2.「価値の共有」のための「対話を尽くす」プロセスの実践
  検討会の最も重要なプロセスは「対話を尽くす」ことであった。対話に綿密なストーリーがあったわけでもなく、対話が滞りなく進んだわけでもない。住民と事業者が中立的な立場の第三者の助言を入れながら対話を繰り返し、様々な角度から、互いの思いや立場を丁寧に確認し続けることで、新たな価値の共有が図られた。

3.スケルトン・インフィル方式の採用
  建物計画では「まちのかたち」に合致したスケルトン・インフィル方式が採用された。「長期にわたって地域に親しまれる」器として、物理的な耐久性だけでなく、様々なニーズに応えるため、多様性や可変性が確保でき、機能面からも長期耐久性の高い、「まちの資産として使い続けることができるまちなか集合住宅」が実現した。

4.歴史的都心街区での「自律型・共生型のまち運営システム」の構築へ
  都心界隈では今回の取組と平行して、姉小路界隈町式目(平成版)の策定、建築協定の締結、さらには地区計画指定などの活動が展開されている。また、NPO法人「都心界隈まちづくりネット」が設立され、都心部での新しい地域共生型のコミュニティづくりなどの活動が開始され、京都の歴史的都心街区での「自律型・共生型のまち運営システム」の構築へと発展している。

5.職住共存の都心再生に向けた新しい建築ルールの導入への効果
  職住共存地区の緊急的に実施すべき施策の検討のため、京都市は「京都市都心部のまちなみ保全・再生に係る審議会」を設置、公開型の討議を経て14年5月に提言が出された。市ではこの提言を受け、都市計画等の変更の手続きを開始した。今回の地域共生の土地利用検討会の取組経過及び竣工した建物の成果などはこの審議会に事例として報告され、検討・研究の対象とされた。

検討会でまとめた基本計画の模型 完成したアーバネックス三条

なお、本件の授賞がH15.4.26付けの京都新聞に取り上げられました。(新聞記事はここをクリック


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