浜甲子園さくら街(第1期建替)「タウンスケープをつくる団地再生デザイン」

推薦者 関西大学教授 江川 直樹

 浜甲子園団地は、阪神電鉄鳴尾駅と甲子園駅の南に位置する敷地面積31万u、150棟、4,613戸の住宅に約1万人が暮らす関西でも有数の大規模団地で、当時の日本住宅公団により昭和37年から39年にかけて2年程の短期間で建設され、都市部への急速な人口移動に伴う住宅不足解消に大きく貢献しました。

 多くの人々に愛され、親しまれ、育まれてきた団地ですが、時の経過に伴い、建物が老朽化し、住宅の構成や設備なども、現代の生活水準に応え難くなり、平成7年度から建替再生の検討調査が開始されました。

 全体構想については、学識経験者からの提案や、行政の意見、指導を受け、検討を重ね、平成13年度に第T期事業に着手しました。再生事業では、浜甲子園独特の雰囲気ある歴史を次代へ継承しつつ、郊外型の団地から、都会的な多様性・機能性を備え、広く地域との一体感のある住宅市街地へと、新たなまちづくりを目指すために、特に、海に近いアーバンリゾート的な特徴を活かし、健康的な雰囲気を併せ持つ、気持ちの良い住宅市街地へと展開することが目標とされました。
 近年の団地建て替えは、敷地をコンパクトに集約し、高密化して余剰地を生み出し、街としての必要施設や民間施設を誘導することが目標とされ、その結果、従来、中層だった集合住宅が一気に高層化し、既存住民の生活環境がガラッと変わってしまうだけでなく、周辺をも含む環境が一気に民間集合住宅(マンション)地のごとく変貌を遂げる例が多いのが通例です。特に建物で言えば、経済効率から容積率を目一杯つかった民間マンションと同様の高層板状住棟やタワー型高層住棟という形状になる例が多く、地域の公共的資産としての公共集合住宅という考えは、どんどん消滅していく流れにあると言えます。

 浜甲子園の建て替えでは、都市再生機構の事業としては他と同様のコスト制約を受けるものの、アーバンデザインの目標と、既存住民、今後入れ替わる新規住民にとっての「浜甲子園らしい居住環境」を創り出すべく、プロポーザルコンペによって新しい集住の形態を模索することとなりました。最初のプロポーザルコンペでは、全体基本計画の策定とマスターアーキテクトの選定が対象となり、基本計画確定後は、同じくプロポーザルコンペによって、ブロックアーキテクトが選定されました。

 どちらかと言えば、ソフトなまちづくりが議論に上ることの多いこの頃ですが、生活環境を形成する骨格としてのハードなデザインにおいて、浜甲子園の街にふさわしい、大きすぎないボリュームの実現を目指し、高層棟を細い搭状のものとして中層棟と混在させ、浜甲子園の気持ちの良い、広い青空が感じられるようにしました。また、人々が行きかう道路レベルはできるだけ小さなスケール感を感じさせるように工夫し、特に1階の住戸には全て専用庭を設け、道路や中庭からも直接アクセスできるようにしています。
 こういった配置は、経済の論理だけでは、なかなか実現できないものであり、戻り入居後1年が経過し、入居者や周辺からの高い評価も得られています。

 事業主の都市再生機構サイドでも、建て替え団地の社会的意義に対する多くの関係者の熱い思いと長時間に渡る検討調整の数々が、このデザインの実現の背後には存在しており、関係者の粘り強い意欲がなければ決して実現できなかったものであります。